2010年9月定例会   10月14日  もうり栄子

第5号  「長野県地方税滞納整理機構の設置について」反対討論

 この議案は、地方税の未収金が年々増加し、徴税コストがかかるなかで、専門性を有した税務職員が不足している事を背景に、県と県内全市町村の参加で、地方税や国民健康保険料の滞納処分等に関する事務を共同して処理する為、広域連合の規約を定め、長野県地方税滞納整理機構を設置するというものです。

 当面、年間1000件を目標に、負担金や職員を出し合い、高額滞納案件や滞納整理困難案件の処理を、財産調査と差し押さえなどを前面にして行なうとされていますが、メンバーに弁護士や国税OB、警察OBなどを加えることからみても強権的な徴税にならないか危惧するものです。
また、その後3年ほど経過したのちには督促状発行の段階から「機構」に業務を移行することを検討したいとしていますが、きめ細かい納税相談をすることこそ重要であり、「機構送り先にありき」にならないようにすべきです。

 もちろん、厳しい財政状況のなかで、「支払い能力があるのに払わない」一部悪質滞納者を解決することや、きめ細かい滞納整理の努力で税収を確保する事は重要なことです。

 しかし、もう一方で地方税等の滞納が増えている背景には厳しい経済・雇用情勢の中で失業や倒産、非正規労働の拡大・病気などがあり、さらに、平成17年度の配偶者特別控除の廃止、平成18年度の老年者控除の廃止、公的年金等控除の縮小、平成19年の所得税・住民税の定率減税の廃止、住民税の累進税率の廃止などにより、それまで非課税だった低額所得世帯、高齢者世帯が新たに納税者となり、これがさらに国民健康保険料や介護保険料などの負担増にはねかえってきて、「払いたくても払えない」深刻な事態が進行していることもまた、事実です。

 滞納者の多くは地方税や国保料だけが滞っているのではなく、失業や病気、倒産などで、生活困難に陥り、公共料金やライフラインにかかわる料金なども滞っている場合があり、多重債務に陥っている場合も少なくありません。

 顔の見える自治体が納税対応を糸口にしながら、きめ細かく相談に乗ることで分轄納付や徴税猶予、さらには就労支援や生活保護をはじめとした公的支援につなげ、生活再建をサポートしていく事こそ、憲法・地方自治法に基づく自治体の責務ですが、滞納整理機構の設立は市町村と納税者の関係から、機構と納税者の関係になり、血の通った対応が損なわれていく懸念があります。

 しかも、税務徴収を一部事務組合で共同化実施している県は茨城、三重、和歌山、徳島、愛媛の5県だけであり、長野県のようにより権限の強い、広域連合を作って実施している県は静岡県と京都府のみで、その京都府も一番人口の多い京都市は入っていません。
県民参加の県政を標榜する長野県が、消費者金融まがいの取り立てを率先して実施するようになりはしないか憂慮しています。

 先行実施している県の実態を見ると、三重県では売掛金、生命保険などを職権で差し押さえたり、滞納した地方税を分割納付していて、機構に移すべきでなかったのに移してしまい、トラブルになる事態も起こっています。

 また、滋賀地方税滞納整理機構は、国税徴収法で給料は生活費として差し押さえ禁止になっているにもかかわらず、督促状を送りつけただけで、差し押さえるなど、生存権も犯す事態になっています。

 長野県では今年から日本共産党県議団も提案した税務担当の職員へのゲート・キーパー研修も始まりましたが、国税徴収法や地方税法では「納税者に滞納処分の対象となるべき財産がないとき、滞納処分の執行によって滞納者の生活を著しく急迫させる恐れのある時は、滞納処分を停止させる事が出来る」と定めており、改めて法の精神にのっとった職員研修の充実も強く求めたいと思います。

 県及び市町村が、納税者の生活実態に沿った指導・援助を強めることこそ重要であり、人権侵害につながる恐れのある「長野県地方税滞納整理機構の設置」には反対いたします。