リニア中央新幹線に関する提言を発表しました
- 2015.07.24
日本共産党長野県議団は7月24日、「リニア中央新幹線 長野県は地元自治体、県民の立場で対応を」とする提言を発表、県に申し入れを行いました。
内容は以下の通りです。(PDF版→リニア中央新幹線に関する提言.pdf)
リニア中央新幹線 長野県は地元自治体、県民の立場で対応を
2015年7月24日 日本共産党長野県議員団
リニア中央新幹線計画は、これまで環境の破壊や安全性、経済性、またエネルギーの浪費など様々な問題が指摘され、住民の間でも疑問や不安が広がっていましたが、国土交通省は2014年10月17日に計画を認可し、JR東海は2027年の開業を目指し2014年12月17日に着工しました。
日本共産党県議団は、2014年2月、9月、2015年7月に党国会議員団や党長野県委員会、関係市町村の党議員団などと現地調査をおこなってきました。こうしたなかで、リニア中央新幹線計画の中止や工事を認可しないことなどを関係機関に求め、また国土交通省への要請、地元自治体や住民のみなさんとの共同など、要望の実現に取り組んできました。国会においては国会議員団がこのリニア計画について再三追及し、大深度地下の利用や30m以深のトンネル工事でも地表の地権者の同意が民法上必要なことを明らかにさせるなど、リニア問題を国政の場で本格的に検討する活動を進めています。
リニア中央新幹線の工事をこのまま進めることは、環境保全、安全性、経済性など将来にわたって重大な禍根となる問題を残しかねません。日本共産党県議団は、計画と工事の凍結、見直しを求めていますが、同時に地元自治体や住民のみなさんの要望や不安を解決するために、国会議員団、地方議員団と連携しながらいっそう取り組みを強めます。
以下、県内における問題点と要望の一端を示します。
1.生活環境、自然環境など地域破壊への深刻な不安
1)残土問題
トンネル工事によって搬出される残土は、長野県内で960万立方メートルという膨大な量になり、残土処理に伴い、大鹿村、中川村、阿智村、南木曽町などの沿線地域や搬出路線となる関係地域では大型車両による騒音、粉塵、振動、排気ガスなど大気質への影響は避けられません。
残土処理期間は10年におよぶような長期の計画であり、住民生活や地域産業に重大な影響を与えます。特に山間地域の産業の柱である観光への影響に深刻な不安が広がっています。
残土処理場箇所は未だ全容が不明で、影響を被る地域が特定できていないのが現状で、今後実施される環境アセスメントに留意する必要があります。静岡市の残土処分場のように、流域上流部の浸食作用が激しい場所への設定が問題になっていますが、長野県内でも名前の上がっている場所は、急勾配の深い沢や過去に土石流災害を起こした場所もあり、残土処理に伴う新たな災害発生の危険性があります。
さらに残土が重金属などを含んでいる場合の問題も指摘されています。
2)水資源問題
水資源の保全に関する環境省の意見は、「山岳トンネル区間が大量の湧水や地下水位の低下や河川流量の減少などへの影響は重大なものとなる恐れがある」としています。現に山梨実験線のトンネル工事では、多くのトンネルで河川の枯渇とそれに伴うトンネル内への多量の湧水など、水資源への影響が問題となり、その補償についての問題も生じています。
しかし、JR東海の提出した「環境影響評価書」は十分とは言えない調査資料を根拠にして、水資源への影響が少ないことや影響の回避が技術的にほとんど可能である旨が記されており、環境省の意見への誠実な対応が求められています。
3)さまざまな環境への影響
希少動物や猛禽類など生態系への影響では、大鹿村の作業用トンネル工事が行われる地域で「ミゾゴイ」に加え、新たに16種の絶滅可能性のある希少動植物が確認されています。地上に構築される橋梁などによる景観破壊、開通後の電磁波や微気圧波の影響も指摘されています。
4)地域経済への影響など
整備新幹線法においては、新幹線による地方の活性化が目的の一つとなっていますが、各地で中間駅の建設、駅周辺整備区域、アクセス道路が個々のくらしや地域そのものの破壊をもたらして問題になっています。そして、活性化の夢は語られますが、中間駅での乗降客の推定やリニアへの投資効果の具体的根拠はあいまいであり、過大な需要見込みや地方自治体の財政危機への懸念はぬぐえません。
2.説明責任を果たさず、聞く耳を持たないJR東海
1)工事認可前
JR東海が説明責任を果たさず、地元自治体や住民の声に耳を貸そうとしてこなかったことは、認可前からも大きな問題になり、「立ち退きなど、テレビのニュースで初めて知った」、「村の要望書に回答もせず、工事実施計画書を提出するとは何事か」、「いくら説明会を求めても答えず、すべては認可後という問答無用のやり方」などの訴えが相次ぎました。
また、自治体や知事意見書が求めていた作業用トンネル(非常口)の削減にはゼロ回答で、「協定等を締結などして、住民の不安を払拭するよう努めること」などについては、公的な約束は「環境影響評価書」に全て記してあるというばかりです。
2)工事認可後
JR東海が各地で開催した説明会も、需要予測や採算性については触れず、工事にともなう大型車両の台数やルート、騒音や振動については「計画が進み地元の了解を得てから」、「基準をできるだけ順守する」というばかりです。残土の処分も安全性や対策を強調するものの、あいまいな説明に終始しています。詳細なルート図や詳しい資料は配られず、「何軒の家が移転対象になるのか」などの具体的な質問にも、まともに答えていません。
中部電力がリニアのための8~9ヘクタールの大規模な変電所を建設することが5月に明らかになりましたが、これは環境影響評価書や工事実施計画には含まれておらず、環境アセスメント逃れてともいえるものです。
計画そのものに対する多くの問題には依然として十分な説明がなく、12月16日には、リニア新幹線沿線住民ネットワークに参加する住民ら5048人が建設認可の取り消しを求める署名と異議申立書を提出しました。着工を認可した国交省とJR東海の姿勢が問われています。
3.長野県への要望
この間、大鹿村や阿智村、南木曽町をはじめとした関係自治体では、工事を認可しないことを求める意見書の採択、大型車両の国道などの回避を求める要望書、対策協議会を設置しJR東海とねばり強く交渉するなど、自治体ぐるみ、行政と住民によるさまざまな取り組みが広がっています。
こうしたなかで、JR東海は「地元の理解と同意がなければ着工できない」(大鹿村説明会)と回答するなど、変化も生まれています。
一方、長野県の対応について、「住民の生活や観光への影響、作業用道路や大型車両の安全性の問題など何ら解決していない」「地元自治体の対策協議会に参加しても傍観者的な立場」などの指摘もあります。推進ありきで地元自治体や住民の要求に応える姿勢がないことが問題であり、本気で小さな自治体や住民の声を聞きJR東海と交渉することが本来の県の責任です。
長野県は、こうした地元自治体や住民の取り組みを受け止め、以下の要望を実現することを求めます。
○地元自治体や住民の間には、工事によってもたらされるリスクをいかに軽減するか頭を悩ませています。住民市町村間の意見交換や交流、情報提供の場を持ち、残土の運搬問題など地元自治体の意見を聞きながら、県が一体になって解決していくこと。
○地元自治体が独自に行うアセスメントや、JR東海が事後調査の対象にしない調査は県が独自に実施することや、地元自治体への協力や支援を行うこと。
○リニア関連事業として計画している事業の中には本来県が進めるべき事業も盛り込まれており、これまでも様々な住民の要望があった。情報公開を徹底し地域の要望を踏まえた計画を。
○水資源や住民生活、観光への影響など地域に対する補償問題や、誘発される可能性のある災害への対応、また、排出ガス適合車の使用など環境影響評価書に示されていない問題について、地元自治体は協定書や評価書の不備を補う文書で確認することを求めている。県も率先してJR東海に働きかけること。
○水資源や住民生活、観光への影響などに対して、県としての認識や説明の不足も指摘されている。土地の買収や交渉など、県や市の職員がまるでJR東海の肩代わりすることや、残土処理で県が安易に関与している問題も指摘されている。「推進室」ではなく、JR東海に対し地元自治体や住民の立場に立って不安や疑問を解決する部局(対策室)を設置し対応にあたること。
○政府に対しても、JR東海任せの無責任な対応を改め、説明責任を果たさせ、住民の納得と合意なくしてすすめないよう指導を求めること。
以上